名古屋高等裁判所 昭和26年(ナ)7号 判決
原告 梅田正一
被告 愛知県選挙管理委員会
一、主 文
原告の訴はこれを却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は「昭和二十六年四月二十三日施行の愛知県春日井市議会議員の選挙が仮りに無効でないとしても該選挙における当選人松原甚市、西脇鶴三郎、長谷川吉太郎、長谷川石松、西尾喜代助、稲垣義一、高桑諦の当選を無効とする。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めその請求の原因として左のとおり述べた。
原告は春日井市公職選挙人名簿に登録された選挙人であるが昭和二十六年四月二十三日施行の春日井市議会議員の一般選挙が行われその結果各候補者の得票数と当選、落選は別表のとおりである。
そこで原告は同年五月三日春日井市選挙管理委員会に対し右選挙は全体としても無効であり、かりにそれが有効であつても個々の投票に無効原因が存するからその当選についても異議ありとして異議申立をなしさらに同月十八日追加申立書を以て事実の補充をしたが同委員会は同月三十日右異議申立を却下する旨の決定をした、そこで原告は六月六日被告委員会に対し訴願したが被告委員会も七月十四日原告の訴願を棄却する旨の裁決をなし原告は同日その裁決書の交付をうけた。
しかし右選挙においては左記(一)乃至(八)に記載するような無効投票三十六票が有効として取扱われ有効得票数に計算されている違法がある。
(一) 第二投票区における選挙人長繩鈴子、第六投票区における同大島きぬ第十一投票区における同林たい、鈴木てつ、武田すゑ、林定助、加藤鉄次郎第十二投票区における同大久保きさ第十五投票区における同梅田らい、伊藤志ゆう第十六投票区における同高木しゆう第十七投票区における同浅野こぎん第二十一投票区における同稲垣静、堀尾ぎん、堀尾たか、堀尾富子、鈴木かね、稲垣鈴一、稲垣はる、堀尾ちい、尾頭さは等はいずれも疾病老衰その他身体の故障により公職選挙法第四十九条同法施行令第五十八条に則り病院又は自宅において代理記載による不在者投票をしたのであるが同人等の各投票は不在者投票用封筒表面に記載すべき要件の中代理記載の事由を記載していない不備の投票であるから無効の投票である、又第二十投票区における選挙人長江のぶ第六投票区における同永草かぎは前同様不在者投票用封筒表面の代理事由記載が不備であるからこれも無効投票である。
(二) 第一投票区における選挙人伊藤銀重は不在者投票用封筒表面要件記載欄に投票年月日を四月二十三日と記載したものであるから無効投票である。
(三) 第五投票区における同川口えい、加藤とうは同上記載要件中投票記載場所を記載していないから無効投票である。
(四) 第五投票区における同加藤銀次郎は同上記載要件中投票年月日投票記載場所の記載がないから無効投票である。
(五) 同投票区における同羽田野秀は同上記載要件中投票年月日投票記載場所選挙人氏名を記載していないから無効投票である。
(六) 第二投票区において同柴田てる、伊藤てつ、伊賀井志やうは公職選挙法第四十八条により文盲者として代理投票を申請したところ投票管理者梶田賢竜は同法施行令第三十九条による補助者二人を選任することなく選挙人の意思を無視して投票したもので明に無効投票である。又梶田辰治は選挙人名簿に登録されているが生来の聾唖者で意思無能力者であるところ右投票管理者は前同様の方法を以て投票したが該投票は意思無能力者又は代理投票の要件欠缺の投票として無効である。又同高瀬英二は盲目者で代理投票を申請したところ右投票管理者は補助者二人の選任手続をなさず勝手に自ら投票したものであるから明に無効投票である。
(七) 第十二投票区において投票をした林尚秀、林青枝は朝鮮人で日本国籍を有していない無資格者である。従つてその投票が無効であることは勿論である。
(八) 第十六投票区において選挙人角田甚太郎は重病のため代理不在者投票をしたが同人は選挙の当日即ち四月二十三日午前四時十分自宅において死亡したから同人の投票は投票開始前失格無効に帰したものである。
そして以上の無効投票は請求の趣旨記載の各当選者の当選の結果に異動を生ぜしめるから請求の趣旨のような判決を求める次第である。(立証省略)
被告委員会代表者は主文第一項同旨の判決を求め答弁として「原告は本訴を提起するについての前提要件たる春日井市選挙管理委員会に対する異議申立及び被告委員会に対する訴願において終始本件選挙の無効宣言を要求してきたものであつて本件選挙においての当選の効力については全然考慮していなかつたことが明白である。それ故にこそ選挙の効力に関する異議申立及び訴願として、それに対応する決定及び裁決を経たものである。従て本件訴訟の前提となるべき当選の効力に関する異議申立に対する決定、訴願に対する裁決など、公職選挙法第二百六条の規定に基く手続を経ていないから本訴は却下せらるべきものである。」と述べた。(立証省略)
三、理 由
原告代理人は当裁判所に係属せる春日井市議会議員の選挙無効訴訟事件(当庁昭和二十六年(ナ)第六号)につき経由した前置手続の証拠として提出した異議申立書、追加申立書、及び訴願書を以て春日井市議会議員の当選の効力を争う本訴についてもその必要な前置手続を経ていると主張し本訴においても右異議申立書を甲第一号証の一、右追加申立書を甲第一号証の二、右訴願書を甲第二号証の一として提出している。
そこで右甲第一号証の一、二、及び同第二号証の一の内容をしらべる必要がある。
もとより一般に異議申立書及び訴願書の内容が選挙の効力を争うものか将又当選の効力を争うものかを決するに当たり単なる文字の末に拘泥すべきでないことは当然であるが弁護士たる大畑政盛の作成に係る本件異議申立書、追加申立書及び訴願書には「本件選挙の無効」となる文言を随所に使用し(特に異議申立書の冒頭には明瞭に公職選挙法((以下単に法という))第二百二条により不服を申立てる旨を記載している)本件選挙の管理執行が選挙の規定に違反する旨を詳説しているに反し、本件選挙において特定の当選人の当選を無効とすべしとか特定の候補者の当選を復活確認すべしとかその他当選の効力を争う趣意は少しも表われていない。尤も本件異議申立書及び訴願書の各末段には「当選者と次点者との得票数に変動を生ずる」旨の記載があるがこれとてもその前段において原告が縷々述べているような選挙の規定の違反のために「選挙の結果に異動を及ぼす虞がある」との選挙争訟の一要件として欠くことのできない具体的の主張をしているに外ならないと見るを相当とする。殊に本件異議申立及び訴願の申立の趣旨にはそれぞれ「昭和二十六年四月二十三日執行した春日井市議会議員総選挙はこれを無効とする」との旨の決定及び裁決をめ求る旨を明記していることにかんがみるときは本件異議申立及び訴願はいずれも本件選挙の効力を争う趣旨と解するのを相当とする。
してみると本件春日井市議会議員の当選の効力を争う訴訟については右の異議申立及び訴願を以ては必要なる前置手続を経たものと見ることはできない。このことは法が選挙訴訟と当選訴訟との間に画然たる区別を設けて彼之混同を許さずその各について前置手続を設けた趣意に照らして已むを得ない結果といわねばならない。
以上みてきたところによつて明なように原告の本訴はひつきよう必要なる前置手続を経ていない不適当な訴といわねばならないからこれを却下すべきものとし民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 中島奨 白木伸 裁判官茶谷勇吉は退官につき署名捺印する事能わず 中島奨)
(別表省略)